最後の一葉が散る

嵐のように過ぎ去った院長回診でしたが
あれって何なのでしょうか?
意味がよくわからない

院長様との会話でも
「具合はどうですか?」
「はい、おかげさまで随分と楽になりました」
「そうですか、そうですか、お大事にね」って
(見舞客のほうがもっと気の利いたことを言うわい)

突然10数人が部屋になだれ込んで来るのですから
患者からしたら異様で怖いですよね
もし小さな子供だったら怯えて泣いちゃうよ。

ふと、横を見るとベッドの手すりにリモコンが掛けられているのに気がつく
ちょうど右側の手すりに掛けられていたので手にしてみる
どうもこのベッドは電動ベッドでそのリモコンのようだ
えーっとなになに?このボタンは背もたれが起きるんだな
もう一つは膝が上に上がるのか・・・
ウィーンウィーン
背もたれと膝を急角度で起こし過ぎてしまい 
ヨダレが器官に入ってむせ返る

なので少し角度を緩めて窓の外に目をやる

最後の一葉が散る



窓の外の景色を見てみると遊歩道に並ぶ7本の木々が寒そうに並んで立っています
ほとんどの木々に葉っぱは残っていませんが
その中の一本の木に残っている数枚の葉っぱに目がいきました

あぁ、あの葉っぱが落ちると私は死ぬのね
(どっかで聞いたようなセリフだな)


しばらくすると有ろう事か黒い雲が流れてきます
願いをかける間もなく 天気は一気に急変し
風が吹き始めます
地面のアスファルトにはボツボツと黒く丸い模様がつきはじめ
雨まじりの突風で私が命を委ねていたその葉っぱは
すべて遥か彼方へ吹き飛ばされてしまいます
「ヒーッ」
生きる気力をも吹き飛ばされてしまったのです。


やるせない気持ちで
どうにも動かない左手を持ち上げてベッドの手すりに投げつけた
「ゴツン」と鈍い音がする
悔しいが痛みがない・・・
でも微かに感覚はある
あるような気がする

つねってみたり指で左の腕を擦ったりしてみる
ほとんど感覚が無いようだがさっきよりは
少し感覚が戻ってきたような気がする・・・

作業療法士さんがやって来た



個室のドアを誰かがノックをする
「どうぞ」看護婦さんかなとおもったら
入ってきた人は作業療法士でした
その作業療法士さんの最初の一言が
「さあ、リハビリを始めますよ」でした

何を言っているのか意味がわかりません
入院して集中治療室から個室に移ったばかりの私にですよ
それなのにもうリハビリって。
もしかして別の患者さんと間違えているんじゃないのか?

作業療法士さんが間違えてないとしたら
私は脳出血を発症して、頭だけではなく
耳までおかしくなってしまったのかも知れません


作業療法士さんから声をかけられて考えている間にも
私の左の口からは一筋のヨダレが流れ落ちているのでした
「ツ・ツツーッ」

だって、ヨダレが出ちゃう。脳卒中患者なんだもん。

                    つづく